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はじめに

 

 天然資源に乏しく,高齢者人口が増加している日本において,高い技術力や教養を有する研究者の育成は,国際社会において我が国が競争力を維持するために欠かせません。研究職を目指す学生にとっては,大学における研究室での教育・研究はその後のキャリアに大きく影響を及ぼすことから,社会に出て活躍する前の非常に重要な期間であると考えています。

 

 有機化学は,物質を分子レベルで取り扱う学問であり,工学,理学,薬学,農学などに広くまたがる重要な領域です。いずれの分野においても,化合物が存在して初めて研究が前に進むため,望みの化合物を必要に応じて合成する,「ものづくり」の能力は,アカデミアや産業界を問わず,有機化学を基盤とする研究者に強く求められています。有機化学が学問として体系化されてから現在に至るまでの約200年の間,さまざまな新規反応や機器分析法をはじめとして,多くの知見が蓄積されています。また,近年めざましい発展を遂げているSciFinderなどのデータベースにより,既存の情報を組み合わせれば,どのような化合物も合成可能であり,「ものづくり」としての有機化学は学問として成熟したと言われるまでになっています。しかし,例えば,これまでに合成されたことがない未知化合物を合成しようとすると,既存の方法を網羅したデータベースが全く役に立たないことが依然として見受けられます。そのため,どのような化合物であっても確実に合成できる能力を持つ研究者は,「もの」があって初めて成り立つ工学の分野においても強く求められています。

 

 当研究室では,人類の健康と社会の発展に寄与する人材として,幅広い知識と高い専門性を有する有機合成化学者を輩出するため,知識の詰め込みに頼らず,反応機構をベースに体系的な理解を促す教育を行っています。具体的には,新規な化合物を合成したり,未知の反応に出会ったりした場合にも,「蓄積された知識に基づいて考える」研究者として,有機化学に関する広範な知識の体系的習得,論理的な思考能力(研究に限らず,他人にプレゼンテーションする能力を含む),実験技術をバランスよく養成することが大切であると考えています。また,化合物の構造的な特徴から反応条件や後処理の方法を適切に選択する能力も,紙の上のプランを実践に移すのには必須であり,これらは日々の実験を通じて,感覚として身に付ける以外にないのが現状です。

当研究室の特徴

 我々の研究室では,有機合成化学者として最低限必要な知識と思考能力を身に付けるために,プレゼンテーション能力とディスカッション能力の向上を目的として,2ヶ月に一度,進捗状況を口頭で発表しています。ある程度の結果がまとまれば,国内のさまざまな学会で発表を行います。また,博士課程後期課程の学生には,国際的な視野を身につけるため,在学中に国際学会での口頭発表(英語)をして欲しいと考えています。さらに,3カ月程度,海外の大学において研鑽を積むことを奨励しており,これまで博士課程後期課程の学生全員が実際に短期研究留学しています(詳細は本ページの下を参照して下さい)。多くの場合は,研究テーマは派遣先のテーマです。場合によっては,この期間の仕事が論文になる人もいます。

当研究室の教育プログラム
 
他研究室との合同研究会

・西野研究室,丸山研究室との合同検討会(年複数回)

・六甲有機合成研究会(年二回,神戸大学理学部(林・松原研究室)・農学部(久世研究室),神戸薬科大学(上田研究室,波多野研究室),神戸学院大学(稲垣研究室),理化学研究所)

・講演会(随時)

研究室内におけるミーティングや勉強会

 当研究室では,有機化学に関する幅広い知識と論理的な思考能力の習得を目的として,主に配属1〜2年目の学生を対象に,週1日程度の平日夕方に勉強会を実施しています。また,最新の研究の動向を把握することを目的として,有機合成化学協会誌の輪読会を理学部や農学部と合同で行っています。

週1日程度の平日夕方
対象:主に配属1〜2年目の学生(有志)
学生有志による勉強会(主にウォーレン有機化学 上下巻)

 学部の講義では不十分な点を補足し,産学を問わず,研究者として最低限必要な有機化学の知識や考え方を身につけることを目的とする。

土曜日(10-12時)
対象:全体

・ 研究成果発表(毎週)

 自身の研究成果をまとめて他人に理解させるプレゼンテーション能力に加え,質疑応答のスキルの向上をめざす。

 また,自立した研究者として必須の,得られた実験結果をふまえて次の一手(今後の方針)を考案する論理的思考能力の涵養も目的としている。

月1回 土曜日午後(13時-15時ごろ)

対象:有志(理学部・農学部と合同)

・ 輪読会:有機合成化学協会誌(国内の最新の研究が和文でまとめられて月に1回出版される)を輪読する。

 国内の研究動向を完全に把握し,それぞれの研究室でどのような研究がなされているかを知る。

当研究室を希望する学生の方へ

 研究室見学は随時歓迎します。事前に教員に連絡した上で日時を調整してください。研究内容や研究室の雰囲気を知るためには,本ウェブサイトに加えて,直接研究室に足を運んでもらうことが一番重要であると考えています。教員のみならず,研究室所属の学生からもいろいろな話を聞くことを強く勧めます(研究室見学の際には,学生のみで話ができる機会も設けています)。

 

 当研究室に配属されるかどうかにかかわらず,将来,研究者として社会で(アカデミアか産業界かは問わず)活躍するために身につけてほしいことを以下に記します。仲の良い者同士で集まることの多い部活動やサークルとは異なり,研究室は,教育・研究を目的とした一つの小さな組織です。社会に出る前に,どのようなタイプの人ともそれなりに関係をうまく築く能力を培ってください。また,我々の研究グループでは,日々のディスカッションを重視しています。黙々と勉強し,実験に打ち込むことは大切ですが,教員とはもちろんのこと,周りのメンバーとも積極的にコミュニケーションを取りながら情報交換し,自己を高める努力が必要です。また,学生実験とは明確に異なる点として,実際に行う研究活動では,教科書やデータベースにも記載がない(=答えがない)テーマに取り組むため,すべての実験が予想通り進行することはまずあり得ません。すなわち,最先端の研究とは,得られた予想外の結果の中にあるわずかなヒントを見つけて壁を乗り越えていくことの繰り返しです。幾多の失敗(=予想外の実験結果)を“失敗”と捉えず受け入れて,原因がどこにあるのかを考察し,問題点を克服する粘り強さがきわめて重要です。最後に,絶え間ない好奇心と日々の実験を継続して行えるだけの心身の自己管理能力が最も大切であることを付け加えます。

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